2025年 / 日本 / カラー / 15分 / 16:9 / 5.1ch / PG12 

千年前の景色

物語の舞台となる建物は、平安京・右京六条一坊五町の発掘資料の図面をベースとして、現存する平安時代の神社仏閣や数々の資料から構造を導き出し3DCGで再現、当時の現地からの風景を可能な限り甦らせた。
屋敷の前の通りから北には朱雀門や皇嘉門などの内裏、その奥には数値地図データより作成した平安京の北の山々が見える。(遠景モデル協力:
梅村重之 /3D京都
制作時にポストしたモデル制作の過程も併せてお楽しみください。

<平安建築モデリングの記録まとめ>

平安の調べ

音楽は前作『ねむれ思い子 空のしとねに』に続きKawagenが担当。監督たっての希望により「西洋楽器を使わず平安時代に存在した和楽器+シンセサイザーのみを使用」という縛りの中、物語を彩る見事なサウンドトラックが完成した。また今回は劇場の音響を最大限に活かすため、音楽も5.1マルチチャンネルで作成。平安時代の心象(和楽器)と現代の我々の心(シンセサイザー)の双方を時を超えて繋ぐ調べを是非劇場の音響でお聞きください。

平安時代の人が聞いていた音

音響効果も同じく『ねむれ思い子 空のしとねに』に続き、高梨絵美が制作。今作では平安時代の音を表現するため、当時の虫や鳥の生態系の再現をはじめ、木靴で歩く音、衣装の衣擦れ音などをフォーリーで新たに収録。また人工物の音の入っていない竹林の環境音を収録するためだけに長野県まで訪れたという。それらの素材をリアル5.1chで配置し「映画の世界に入ったような」音響空間を作り上げた。

監督:栗栖直也

インディペンデントアニメーションレーベル Hand to Mouse.代表。
平安CG短編『文使』(2004)で東京国際アニメフェア優秀賞・他、続くSF短編『Turquoise Blue Honeymoon』(2005)でTSSショートムービーフェスティバルグランプリ・他を受賞。2014年には初の商業作品『ねむれ思い子 空のしとねに』をセルフプロデュースで発売し、シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭・長編部門ノミネートを含め、世界6カ国で上映。その後インターフィルム配給により下北沢トリウッドなど東京、名古屋、大阪での劇場公開及び全国レンタル展開された。
オリジナル作品以外では東京国立博物館シアター『冬木小袖 光琳が描いたきもの』展や京都御苑資料館 VRシアターなどで、歴史衣装再現CG映像を制作。エンタメ系では、初音ミクシンフォニー2019〜2021までのメインテーマMVなどを担当している。

Hand to Mouse.

音楽:Kawagen

’80年代から多数のゲームミュージックを手がけて来た稀代のサウンドコンポーザー。そのジャンルにとらわれない多彩な音作りで本作品を彩っている。AppleMusic、Amazon Music、SoundCloud等でチップチューン・デジタルポップ・ボーカル曲などオリジナル曲を多数公開中。その才能の一部を垣間みることが出来る。

Apple Music

♪ 作曲家コメント ♪

栗栖監督との出会いは2013年の秋、今ではもう存在しないYouTubeのダイレクトメッセージがきっかけでした。偶然開いた受信箱に届いていたご依頼のメールが、監督と共に音楽を創り出すことになった全ての始まりです。

後に伺った話ですが、監督のお兄様が私の過去のゲーム音楽を大変気に入ってくださり「デートの時にも車で流せる音楽だ」とまだ幼かった監督に伝えてくれたそうです。その時からいつかご自身の映画を撮る際には私にと心に決めてくださっていたと知り、作曲家としてこれ以上ない喜びを感じたのを覚えています。

初めてご一緒した前作『ねむれ思い子 空のしとねに』では「Kawagenさんが音楽を欲しいと思った箇所に自由に入れてください」という監督の言葉に私の情熱も溢れ、今思えば音楽が“てんこ盛り”の状態になりました。

今回も同じように温かい言葉をいただきましたが、今作ではあえて音楽の数を絞り、監督から指示があった箇所に音を響かせることに集中しました。それは監督の頭の中にあるイメージにより忠実でありたいと強く願ったからです。この試みは結果として音響の高梨さんによる素晴らしい仕事を際立たせ、登場人物の微かな息遣いやその場の空気そのものが持つリアリティを、より深く感じさせる効果を生んだと信じています。

また時代感を出すために当時の音楽を研究しましたが、監督の「あまり縛られなくて良い」という言葉に背中を押され、邦楽器の持つ伝統的な響きとシンセサイザーの音色を融合させるという新たな挑戦をすることができました。

こうして生まれた音楽がスクリーンの中で物語や俳優陣の息遣いとどのように響き合うのか。ぜひ劇場でその音に耳を澄ませていただけたら幸いです。

音響効果:高梨絵美

『鬼灯の冷徹』など多くのアニメーション作品に参加する音響アーティスト。今作でも「画面外の世界」を効果音によって見事に構築している。

音響監督:鍛冶谷功

外国語映画・海外アニメーションの吹き替えを数多く担当する音響演出家。本作では古語(原語版)+現代語(吹き替え)というスタンスで2パターンの音声収録であったため、外国作品吹き替えのアプローチを持って演出が行われた。

音響エンジニア:
堀田英二

長年、スタジオスタッフとして音響技術に携わり、現在はフリーランス。吹き替え、アニメ、ゲーム、等々、多ジャンルにわたって音響ミキシング道を邁進中。

プロデューサー:
森田一人 
西村よしたか

『後朝の花雪』にて時正を演じました木島隆一です。
『ねむれ思い子空のしとねに』から引き続き、栗栖直也監督の作品に参加できること大変光栄です。
また今回は古語版にも挑戦しております。(※劇場公開は現代語版のみです・古語版は後日発表予定)聞き慣れない言葉のはずが自然と耳に馴染み、世界に没入させるのが言葉の不思議だなと感じました。国内外問わず様々な方にご体験いただきたい作品です。

《木島隆一:プロフィール》
3月29 日生まれ 北海道出身
マウスプロモーション所属
代表作に『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』(ミツキ)、『GOD EATER』(空木レンカ)、
『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』(伊弉冉一二三)他

まるで泡沫の夢のような――切ない恋心。
『後朝の花雪』にて小浜を演じさせていただきました、石黒千尋です。
 平安時代に実際にあったかもしれない、どこか無気味で恐ろしく、そして切ない物語を演じさせていただきました。
どの時代においても、恋心とは難儀なもの。
 一度芽生えた想いは、たとえ命尽きようとも、簡単には消え去ることはありません。
 そんな彼女の想いがどこへ辿り着くのか――ぜひ最後まで見届けていただけましたら幸いです。
栗栖監督が描く、ひょうきんで個性豊かなキャラクターたち、そして美しくも残酷な 3D表現には、今回も目を奪われました。
 平安時代の歴史背景や建築物の造形など、細部まで妥協のないその世界観は圧巻です。
 ぜひ映像美のひとつひとつも、お楽しみください。

《石黒千尋:プロフィール》
1月24 日生まれ 北海道出身 Somarazu株式会社代表
VOCALOID「結月ゆかり」ボイス担当の他、自身のチャンネル『ちひらぼっ』にて VTuverとしても活動中。

光と闇、生と死。
男と女の間にある想い。
それは呪いなのか愛なのか。
ぜひ見届けて頂きたい作品です。
『後朝の花雪』では栗栖監督が平安に漂う空気の温度、肌の温度までも描くようなこだわりを詰め込んでくださいました。
見えるもの見えないもの、聞こえるもの聞こえないもの。
人の幸せと不幸せの間に何があるのか。
栗栖監督が描かれる世界は切なく愛おしいものです。
皆さまには劇場で直接、肌で感じて頂きたい作品です。

《武虎:プロフィール》
1月31 日生まれ 兵庫県出身 俳協所属
代表作に『ジョジョの奇妙な冒険』ダイアー、『ONE PIECE』ギャッツ、『ストリートファイター』シリーズ 豪鬼他

栗栖監督にお会いしたのは、15 年くらい前の東京国際アニメフェアの関係者懇親会・・
でした。お名刺交換をした時に監督の手が一瞬止まったかのように感じて、その後、制作されていた作品の主人公と私の名前が一緒だったという事が分かり、妙にご縁を(勝手に)感じて、それから(これまた勝手に)親戚のような気持ちで制作に関わらせて頂いております。
何年も、たった一人で作り続けるエネルギー、凄いことです。
今回の作品は短いものですが、隅々に平安時代の厳かで美しい様子が蘇り、小浜と時正の
想いが、移りゆく景色の描写と共に胸をいっぱいにしてくれます。
作品の中の人物が手にする立派な野菜を見て、いつも私は・・食べたいな~と目を奪われております。今回は、茄子。

《福島おりね:プロフィール》
8月7 日生まれ 宮城県出身
株式会社ウォーターオリオン代表
声優としての代表作に『ねむれ思い子 空のしとねに』(入之波織音)、『ヤンボウ ニンボウ トンボウ』(ヤンボウ)他
キャスティングと音響監督として、ゲーム『ダンガンロンパ』シリーズ、『龍が如く』1・2等、多くの作品を担当している。


諏訪道彦
(アニメプロデューサー)

このような時代背景の作品を見るたびに、どうしてこの監督たちはこの作品を今の時代に作ったのだろう、という疑問に近い関心があります。
作画や音響はその時代を微に入り細に入り映し取っていて見事。その上で見るものに伝えたいエネルギーをかぶせてる。
訳あって女を捨てた男の行く末と、捨てられた女の純粋すぎる心。
そうなんだ、そのどちらも今の時代に見ないものなんだ。
蝶、桜、茄子。短く表現されてる小道具もきちんと物語にくいこんで見る視聴者を安心させてくれる。
ダークに見えてまさにピュアな現代の御伽草子。
うん。ちょっと大切にしたい作品ですね。

《諏訪道彦:プロフィール》
『名探偵コナン』の初代プロデューサーを務め、その他にも『シティーハンター』『YAWARA!』『ブラックジャック』『金田一少年の事件簿』『結界師』『犬夜叉』『ヤッターマン』など、数々の人気作の企画制作に携わっている。


解説 ー 増當竜也(映画文筆)

個人制作アニメーションの雄 
栗栖直也

昨今のデジタル技術の発達で、それこそ画家が絵画を描くかのように(ほぼほぼ)個人作業でのアニメーション制作が容易になり、現在続々と気鋭の作家が登場してきている。栗栖直也監督もその一人だ。
 故郷の奈良を拠点に、土木建築系3DCDの仕事からアニメーション制作に興味を持ち、これまでに『文使(ふみづかい)』(2004年)『Turquoise Blue Honeymoon』(2005年)『ねむれ思い子 空のしとねに』(2014年)と作品を発表。劇場公開されたおよそ50分の『ねむれ~』以外は10分強の短編ばかりである。
現在まで30年ほどのキャリアにしては一見本数が少なく感じられるが、土木系のみならず初音ミク・ライヴや商業アニメーション作品、さらに最近は京都御園、東京国立博物館から依頼を受けての多忙な3DCGワークの合間を縫って、コツコツと地道に新作に勤しんでいるからで、その分じっくりと手間暇をかけた技術の冴えを存分に堪能できる。また作品ごとのタームが長い分、技術の進化みたいなものもそのつど堪能することもできる。
技術だけではなく、栗栖監督独自のセンスやこだわりなども各作品群から濃厚で、このたび『ねむれ~』からおよそ10年ぶりに発表となった待望の新作『後朝(きぬぎぬ)の花雪(はなゆき)』は13分強の短編だが、前作と比較しての技術の躍進を画面の隅々まで堪能できるとともに、栗栖監督自身のクリエイターとしての自信やゆとりの姿勢まで体感することができる。
栗栖監督作品は今のところ大きく歴史ものとSFに大別できるが『後朝の花雪』は『文使』同様に平安時代をモチーフにしたファンタジーである。今回は『今昔物語』に収められた「死んだ妻が悪霊となる話」を原作に、妻を捨てた貴族がその亡骸と再会することでの摩訶不思議とも魑魅魍魎ともいえる物語が展開されていく。
平安朝の雅な世界観の中で繰り広げられる幽玄なタッチは『雨月物語』(1953年)『怪談』(1965年)などの実写映画名作群を彷彿させつつ、平安朝を舞台にした少女漫画チックなキャラクターデザインと写実的な背景とを違和感なく融合させることで、悲しくも美しい一種独自のロマンティシズムまで醸し出すことに成功している。
 エンドタイトルで当時の用語やアイテムなどを解説する手法は『文使』とも共通していて、また『文使』は監督が独自に構築した古語発声という実験的かつユニークな趣向が凝らされていたが、今回も通常の日本語版と古語版が制作された。今回は日本語版での公開となるようだが、できれば古語版も公にお披露目していただきたいところだ。
 今回『後朝の花雪』と同時上映される『ねむれ思い子 空のしとねに』は世界各国の映画祭で絶賛された栗栖監督のSFジャンルとしての代表作で、近未来を舞台に実験用宇宙ステーションでヒロインが19年前に死んだはずの母と再会する(なお今回はHDリマスター5.1chバージョンでの上映。前回の上映よりハイ・クオリティの画と音を堪能できる)。
栗栖SFはあくまでもサイエンス・フィクションとして日常で起こり得るかもしれないことを題材とするのが常で(『Turquoise Blue Honeymoon』も近未来の新婚旅行を題材にしたものだ)、本作も例外ではない。ではなぜ母親が?それは見てのお楽しみとなるわけだが、栗栖SFはどことなく1970年代から80年代にかけてのSFやホラーなどファンタスティック・ジャンルのエッセンスが詰め込まれている感があり、そこも人間臭さを感じさせてならない要因のひとつではあるのだ。
そして時代ものであれSFであれ、栗栖作品は夫婦や親子といった家族的共同体をモチーフにした作品が今のところ大勢を占めている。各作品のスタッフ・クレジットを見ると夫人やお子さんなど家族の名前が常に入っているところからも、家内制手工業ではないが家族の協力や理解を得てのヒューマニスティックな3DCGアニメーション制作が成立していることを、作品そのものが巧まずして証明しているかのようだ。
正直なところ、そろそろ栗栖直也監督の長編作品を観たいというのが本音ではあるのだが、やはり個人制作は(特にアニメーション制作は)予算も時間もかかるものなので、むやみにせっつく野暮は控えたいと思いつつ、やはりそれでも観てみたい。実際いつになるか、先は長そうではあるが、心して待ち続けていきたいものである。


監督より

おそらく学校で習うこともあるのでしょう、一般に平安時代と言えば『源氏物語』に代表される王朝文学を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。もちろん源氏物語が素晴らしい作品であることに異論はありませんが、庶民から徴収した税で安穏と生活しつつ、女性を口説く事ばかりに執心する上流貴族達の日々が、当時の代表的イメージであることに常々違和感も感じておりました。
そんな思いもあり、私の初作品『文使』では白拍子と牛飼童という「貴族でない男女」の恋を奇譚として描き、ありがたいことに多くの方に楽しんでいただけました。
その後はもう一つの私の柱であるSF作品(『ねむれ思い子 空のしとね』)を形にしたのですが、その制作中もずっと「次はまた時代物を作りたいな」という思いが強く、今回初作品から二十年ぶりの平安短編『後朝の花雪』という形で結実いたしました。
古典文学の中でも庶民が多く登場する『今昔物語』の一編を脚色し、下級貴族の恋模様を怪談という形で描いた本作が、また平安時代の違った一面を皆様に感じていただける機会になれば本当に嬉しいです。