監督より
おそらく学校で習うこともあるのでしょう、一般に平安時代と言えば『源氏物語』に代表される王朝文学を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。もちろん源氏物語が素晴らしい作品であることに異論はありませんが、庶民から徴収した税で安穏と生活しつつ、女性を口説く事ばかりに執心する上流貴族達の日々が、当時の代表的イメージであることに常々違和感も感じておりました。
そんな思いもあり、私の初作品『文使』では白拍子と牛飼童という「貴族でない男女」の恋を奇譚として描き、ありがたいことに多くの方に楽しんでいただけました。
その後はもう一つの私の柱であるSF作品(『ねむれ思い子 空のしとね』)を形にしたのですが、その制作中もずっと「次はまた時代物を作りたいな」という思いが強く、今回初作品から二十年ぶりの平安短編『後朝の花雪』という形で結実いたしました。
古典文学の中でも庶民が多く登場する『今昔物語』の一編を脚色し、下級貴族の恋模様を怪談という形で描いた本作が、また平安時代の違った一面を皆様に感じていただける機会になれば本当に嬉しいです。